花とみらい

あなたの輝く笑顔が、ずっとずっと続きますように。

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鬼夕の月(7)

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全ての罪を背負い   孤独を嘆く権利を剥奪され
兵器として扱われ続けても  あの光は失わない
例えそれが与えられた運命で在ったとしても
例えそれが架せられた命だとしても


鬼夕の月(7)  孤独な兵器 

「すみません、入ってもよろしいですか?」

ドア越しに、良く透るソプラノの声が聞こえる。
篝はベットの上に捨て置いていた手紙を手早くシーツの下に隠す。
「……どうぞ。」
ドアが鈍い音を立てて開き、其処からは先ほどの女性が覗き込むように
此方を見た。そしてゆっくりとした歩調で部屋に入ると、ゆっくりとドアを閉める。
「急にすみません。デザートをお持ちしようと思って…。」
「・・・・・。」
「お好みがわからなかったので、勝手に作らせて頂きましたが。」

女性はそれだけ言うと、ベットから少し離れた木製のテーブルにデザートを置く。
部屋には美味しそうな甘い匂いが充満し、食欲を誘うようだった。
「あ、あの・・・・・。」
「・・・・・・・何か?」
「あ、えっと。自己紹介が遅れました、よね・・・?その、私は『莉乍(りさ)』と言います。このペンション『リチェリス』の女主人です。」
「・・・・?随分若い、女主人だな。」
「ええ、よくそう言われます。」
莉乍はにっこりと微笑み、軽く相槌をうった。
「5年前に両親を無くしてから、ずっとこの田舎の村で民宿をしているんです。とっても、いい景色でしょう?此処は、死んだ両親の村なんですよ。」
莉乍はポケットから小さなパン屑を取り出すと、窓際に近寄り鳥の居る方向へとそっと放る。
風が莉乍の長い髪を撫で、まるでレースのカーテンかのようにサラサラと宙に舞った。

「篝さんも、大切な方を無くされたんですね。」
莉乍は振り返ると目を細めて、寂しそうな表情で篝を見た。
篝は無表情のまま、口を開いた。
「なぜ、そう思う?」
「…似ているからです。私が昔出会った、優しい友人に。」
「……。」
篝は俯いた体を起こし、足を組むと、視線を莉乍の元へと向けた。
莉乍はそんな篝の視線を見ると、微かに微笑んで近くの木製のイスへ腰を降ろす。
そして、莉乍は静かな表情でそっと口を開いた。
「その友人は、国家に属する騎士団体の一人でした。ある日、その友人は大きな戦争の中で、騎士団長から密命を受け、とある一小隊にその真実を告げずに出動命令をだすよう命令したんです。『東エリアにある、食料庫を守り通せ』と。しかし、実際はもう東エリアには敵が待ち構えていて、一小隊が出陣したところで、全滅してしまうことがわかっていました。その騎士団長は、その一小隊を囮にして、自軍を撤退させようと考えていました。もうそれしか、道は無かったのでしょう。その友人も、ソレをわかっていました。しかし、その一小隊には、自分の親友が居ました。そして、自分の親友を騙し、敵軍に殺されろと言うような指示を出すことを、深く悲しみました…。」

莉乍は溜息を零し、空を見据えた。
「けれど、その選択をしなければ、確実に何万もの軍隊が死に絶え、都市に住む多くの人々の血が流れることは確かだったのです。こうして、一小隊は東エリアにて全滅しました。その友人は、そのまま騎士を辞めたそうです。そして、その友人は・・・その任務を遂行する前に私に訪ねてきたのです。私はそうとは知らずに、言いました。」

―莉乍、君は数万の軍と一人の親友のどっちを取る?

―・・・なんとも言えません。ただ・・・私は親友でありたい。

―何故?それによって、多くの人の血が流れてもかい?

―えぇ。だって軍の人は、大切な何かを守るために戦うのでしょう?

―・・・・あぁ、そうだね。

―だったら、自分の大切な人を犠牲にする為に、戦うわけではないもの。
たった一人を守れなくて、数万人の人々を助けられるのかしら。
一人すら助けられない人間の、『何万人もの人々を救ってみせる。』って言う
発言は、とても恥ずかしい行為だと思うわ。それだったら私は、たった一人でも死ぬ気で守ってみせる。だからたった一人でも、犠牲にしちゃダメだと思うんです。


―莉乍は、本当に強いんだね。僕もそうはっきりと言える人間になりたかった。でも、もう遅いんだろうね・・・。

―そんなことは・・・ないですよ。――さんだってきっと・・・。


莉乍は拳を強く握り、俯いた。
「その後、その友人は一小隊を犠牲に、自軍を撤退させました。その報せを聞いたとき、私は深く後悔しました。軽率な発言だったと。」
篝は溜息を零した。目の前に居る少女は一体、何が言いたいのか。
その少女の意図が、まったくわからなかった。いつまでもこの話に付き合う気分
にはなれなかった。
「だから、篝さんも・・・・・。」
「・・・いらないおせっかいはやめてくれ。」
「・・・・・っ。」
莉乍は驚きの声を上げた。冷たい刃物のような言葉は、莉乍の胸を貫くには
十分だった。篝は重い腰をベットから上げると、近くに置いてあった自分の
黒服を手にする。莉乍は少し怯えた表情で篝を見る。
「沙楽っていうやつは言ったのか?俺を慰めろとでも。お前の昔話とやらを披露してやってくれだとでも。」
「・・・・・そ、そういうわけでは・・・でも・・・。」
「だったらやめてくれ。時間の浪費は好きじゃない。」

莉乍が息を飲み、逃げるように部屋から出て行っても、篝は追うことはなかった。
追ってしまうのは簡単なのだ。しかし追ってしまえば、相手は自分に好感を持ち、もっと色々なことを聞き始めるに違いなかった。一人部屋に突っ立った篝は、誰にも聞き取れないほどの小さな声で、呟く。

「もう、俺に関わる人間は…夕夜だけで十分だ…。」

その小さな呟きは、小鳥の囀りに消え去っていった。。。







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