花とみらい

あなたの輝く笑顔が、ずっとずっと続きますように。

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鬼夕の月(3)

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嘘で塗り固めた世界の片隅で
今にも壊れてしまいそうなほどの悲しい微笑を浮かべた君
もう懐かしむこともできない  失われた時間


鬼夕の月(3) 失われた時間 

緑の生い茂る森を抜けると、荒れ果てた黄砂。
あちらこちらには今はなき惨状の跡だけが残り、ぱっと見ただけでは人が住んでいるような地には見えなかった。数年前に、エディア大陸を震撼させた組織、SNS【サルガナサス】の手によって崩壊させられた都市のひとつ。その時の惨状は語られる事もなかった。

だから、誰も真実は知らなかっただろう。
見た目14・15の少年は、大きな岩陰の上に座り、遠い景色を眺めた。

「あ、篝~やっと見つけた・・・ふぅ」
一人の少年が息を切らしながら岩下に立ち止まり、こちらを見ている。
篝は岩下に居る少年を見下ろす。
「夕夜・・・?どうかした?」
「どうかした?・・・じゃないだろ~?」
「あぁ、ごめんごめん。」
篝は兄のような存在である彼に心から謝罪する。
夕夜は岩の上まで上ってくると、不思議そうな表情で篝の手に持っているモノを見る。
「それ・・・種?」
「そう。」
篝はにっこりと笑顔を零す。
この荒れ果てた大地に種があるというのも驚くべきことであるが、篝が何を思ってこんな荒れ果てた地の、しかも偏狭に居るかというのも、十分驚くべき要素の一つだった。

「それ・・・まさか、撒くのか?」
夕夜は信じられないという表情で篝を見た。
この地はSNSの侵略前も、黄砂が見える地だった。
勿論、水源すらも無いこの場所では、例え撒いたとしても育たない。
だからこそ、崩壊された都市の市長、エルカは水源のある地を探しだすのに、5年もの月日を要したのだから。
「・・・あぁ、撒くよ。ちゃんと、改良済みだから大丈夫。」
「大丈夫って・・・どんな風に?」
夕夜は岩に腰掛けた篝を、食い入るように見る。
「この種は、気温差の激しい地に長けてる。おまけに、その急激な温度差が水代わり。つまり、水が要らない。それどころか、水を苦手とする植物なんだ。」
「えっ・・・それじゃあ、この地が緑を取り戻すのか?」
「上手くすればね。これが上手くいけば食料も調達できると思う。ようは、品種改良すればいいだけだからね。」
夕夜は絶句していた。しかしそれは直ぐに喜びの色へと変貌した。
「そ、それじゃあ・・・また、また元の都市になるかな?」
「・・・・・・まぁ、何時かはそうできると思う。確信はないけどね。」
「・・・・それでも、凄い発見だよ。何か、希望湧いてきちゃったな。」
「あはは、でもかなりの月日がかかるよ?」
篝は自分の手にある僅かな種を見る。夕夜は輝きを表した表情のまま、その手にある希望を見つめた。『また、この都市が賑やかな場所になって欲しい。』夕夜はずっとそう言っていた。
夕夜は、SNS侵略の中、偶然にも父の誕生日プレゼントを買いに、街を離れていた。心踊らす気持ちで帰ってきた夕夜に、大切な人々の死はどう映ったのだろう。夕夜は其処で立ち止まったまま動かない少年に出会った。それが、俺だった。
篝は岩から飛び降りると、夕夜もまた、岩の上から飛び降りた。
篝は、持っていた種を下の砂地に放る。
夕夜はその種を見つめながら、ふと呟いた。

――「育つと、いいよな。」
何故か夕夜は悲しそうな表情で、そう言った。




*--◇--*--◇--*--◇--*--◇--*--◇--*--◇--*--◇--*--◇--*--◇--*


俺は、この時も記憶がなかった。
崩壊された都市、エイレンの都市侵略は、物凄いモノだったと言う。
生存率は、0%と言ってもいい。ただ一人、俺と夕夜を除いては。
夕夜は、偶然にも他の都市に行っていた為に無事だった。
じゃあ、俺はどうやって生き延びたんだろう?
10・11歳くらいの少年が、なぜエイレンに居ながら無事だったのか。
夕夜が言うには、その時の俺は生気が無かったという。
見ているようで何も見ていず、虚ろな瞳で・・・ただ其処に立っているだけであったと。



「俺の名前は夕夜(ゆうや)って言うんだけど。君の名前は?」
金髪の髪を風に靡かせ、明るい顔をしてそう尋ねてきた。生存者が居たことに、心なしか笑顔を零しているその少年は、少し屈んだ姿勢で訪ねてくる。
「・・・・・・・・・名前?」
「そう、名前だよ。君の名前・・・なんていうの?」
「・・・・・・ない。」
「え?」
相手の少年・・・夕夜は、驚いた表情で此方を見る。
「名前が無い???うーん・・・困ったなぁ。」
夕夜は苦く笑って、ほんの一瞬寂しげな顔をした。
そして直ぐにもとの笑顔に戻り、口を開いた。
「うーん、じゃあ・・・・篝!篝なんてどうかな。カッコイイだろ?」
「・・・・・・か、がり?」
少年は輝かんばかりにそう言った。
「・・・・篝?ソレが自分の名前?」
「・・・うん。そうだよ・・・?」
篝は、そんな少年(夕夜)の笑顔を見て、初めて笑顔を見せた。
夕夜はそんな小さな子供(篝)の笑顔を見て、少し照れくさそうに笑った。
「ねぇ、一緒においでよ。一緒に。」
「・・・え?」

篝は驚きを隠せずに夕夜を見つめる。
「・・・・・・何処にいくの?」
篝は灰炎にまみれた都市を仰ぎ見る。
「・・・・そうだね。何処に行っ・・・・。」

そこで声は途切れた。一体何処に行くと言うんだろう。
家も、家族も、友人も都市も全て灰色の炎に包まれてしまったと言うのに。
こんな、頼りない子供2人で、どうすればいいんだろう。
「・・・ゆ、うや?」
篝は声の途切れと共に、夕夜を見た。
夕夜は俯き、小さな嗚咽を零していた。
崩れ落ちるように、体は地につき、篝を抱きしめた。
「なんで、なんで・・・っ・・・。」
「・・・・・・。」
夕夜は篝を強く抱きしめた。
「皆いい人だったのにっ・・・なんで・・・。」

篝は夕夜の肩に顔を押し付けたまま、目を瞑った。
まるで一人の少年の悲しみを、精一杯支えようとしているかのように。




















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